2019年9月10日火曜日

ダイバートです! ダイバードは誤用です! 目的地外着陸を意味するdivertの意味と発音の解説 | 元言語学専攻の飛行機オタクが語る正しい航空用語

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台風15号、凄かったですね。神奈川県在住の私も久々に肝を冷やした台風でした。翌日が有給で会社休みだったので、フライトレーダー24やTwitter、ATCなどで羽田空港の状況を見ていたのですが、ダイバートが多数発生したみたいですね。

今回に限ったことではないのですが、悪天候になると、Twitterなどで”ダイバード”なる謎の単語が散見されます。言語学を専攻していた筆者としては、この不思議な単語が気になって仕方がありません。と、いうわけで今回は正しいダイバートの使い方を、大学で言語学を専攻していた筆者がお届けします。


Divert - 目的地外着陸とは?


ダイバート(英語: divert)とは、航空機の運航において、当初の目的地以外の空港などに着陸することを意味します。ダイバージョン (diversion)・代替着陸・目的地外着陸とも呼ばれます。

DIVと略されたりもしますね。


雪や台風などの悪天候や天災で目的地の空港が閉鎖されてたり、機内で急病人が発生した場合などにこのダイバートが行われます。今回首都圏では、台風により羽田・成田の両空港を目的地とした多くのフライトがダイバートを行った模様です。


divertだよ、diverdじゃないよ。意味・用法の解説


まず結論から改めて。divert、ダイバートが正しくダイバードは誤りです。diverdだったりdibird、diebirdなる単語は存在しません。

divertとは元々、「を反らす」「転用する」「迂回させる」と言った意味の他動詞です。これが航空用語として"転用"され「目的地外着陸(をする、させる)」という意味を持つようになりました。日本語ではあまり見られませんが「目的地外着陸」と名詞で述べたい場合、divertの名詞型のdiversionが用いられます。

因みにこのdivert、大学受験で必須の単語ですが、当時から航空オタクだった筆者は、「ああ、ダイバートはこの単語から来ているのか」と合点がいったのを覚えています。

閑話休題。用法を見ていきましょう。

基本は他動詞・受動態


目的地外着陸をさせる、という意味の他動詞なので、フライトそのものが主語の場合受動態で用いられます。

A Kolkata-bound SpiceJet flight from Chennai was diverted to Bhubaneswar in Odisha due to a medical emergency on board. Chennai発Kolkata行のスパイスジェットのフライトが機内の急病人発生により、OdishaのBhubaneswarにダイバートを行った。
文構造的に直訳すれば目的地外に着陸させられたとなりますね。ダイバートさせたのは天候だったり、航空会社だったり。能動態の文に戻すのであればこの辺が主語になるはず。

上記のインシデントですが、別のニュースですと
SpiceJet Diverts Chennai-Kolkata Flight to Odisha as Passenger Falls Sick Onboard, Dies Later
という見出しで書かれています。これはスパイスジェットがChennai発Kolkata行のフライトをOdishaにダイバートさせたという、航空会社が主語の能動態の文。


自動詞として使われることも。


Norwegian Air flight diverts to Dublin. こちらはフライトを主語にしているので、「ダイバートした」という直訳でもしっくりきます。


(英語での場合)名詞としてはdiversionがより適切


本邦のANAのツイート参考に。英語で使われる場合は名詞としてはdivertではなく、diversionが適切です。日本語での場合はこの限りではありません。


発音は[dɪvˈɚːt, dɑɪ‐|‐vˈəːt]で、無声音


このdivertという単語ですが、発音は[dɪvˈɚːt, dɑɪ‐|‐vˈəːt]となります。[ダイヴァート]ないしは[ディヴァート]となるわけで、[ダイヴァード]と有声音の/d/が出てくる余地はゼロなわけです。と、いうわけでダイバー[ド]と濁音になってしまうのが不思議でなりません。

飛行機が鳥とおなじで飛ぶものだから、鳥=bird[バード]と連想してダイバードなる謎の英単語が生まれたのでしょうか。


最後に


誤用をしている方を不快にさせる目的で書いた記事ではありませんが、やはり言葉の誤りは気になります。ましてや、外国語を話して飛行機に乗って世界に飛び出ていくのですから、正しく英語は使っていただきたいという思いもあります。国際線に乗って一番使用頻度が高いのはやはり英語でしょうし。

それでは皆様、正しく使って楽しい航空旅行を。